ピッツバーグ大学の研究チームが発表した「高タンパク食は心血管疾患のリスクを高める」という内容の研究が、ニュース等で大きな話題となっています。この報道によって、多くの人が「高タンパク質食は心臓病の原因になるのでは?」と不安に感じているようです。

【実験結果】高タンパク食と動脈硬化の関係

ピッツバーグ大学の研究によると、カロリー摂取量のうち46%をタンパク質から得ることで、動脈硬化の可能性が高まったという実験結果が得られています。つまり、動脈硬化による心臓病の発生リスクが高まることが明らかになりました。

しかし、この実験はマウスを使って行われたもので、人体を使った実験ではありません。さらに、マウスは動脈硬化が起こりやすいように遺伝子操作されたものです。

このため、マウスによって得られた実験結果が、そのまま人体に当てはまるかどうかは不明です。また、動脈硬化が発症する割合についても、人間とマウスで同じ数値を示すかどうかも分かっていません。

高タンパク食の人体実験

さらに、ピッツバーグ大学の研究チームは 2 つのヒト実験も行いましたが、こちらも直接的に CVD リスクを測定したわけではありません。彼らは、タンパク質摂取によって活性化される「mTOR」と呼ばれるシグナル分子に着目しました。mTOR は細胞の成長などに関わる生体機能を調節する分子ですが、活性化されると「オートファジー」(不要な細胞内物質を分解・除去するしくみ) が抑制されることが知られています。研究チームは、高タンパク質食が mTOR を活性化させ、オートファジーを抑制することで、最終的に動脈硬化を悪化させるのではないかと推測しました。

実際、実験参加者に大量のタンパク質を摂取させると (一実験ではカロリー摂取量の 50%、もう一実験では 22%) 、mTOR の活性化とオートファジーの抑制が認められました。しかし、それ以上の観察は行われていません。また、同じ研究グループのマウス実験では、オートファジーの抑制が既存の動脈プラーク内のミトコンドリア機能低下を引き起こし、動脈硬化を悪化させる可能性が示唆されましたが、この結果も他の研究グループによる追検証が必要とされています。

医師や科学者たちの見解は?

この研究に対しては、多くの医師や科学者たちが疑問の声を上げています。 高タンパク質食を推奨しているニュージーランドの医師 Brad Stanfield 氏は、運動が CVD リスクを大きく低下させるという多くの研究結果を紹介しています。また、科学者の Dudley Lamming 博士の研究では、レジスタンス運動 (ウエイトトレーニングなど) を行うことで、高タンパク質摂取に伴う CVD リスクの上昇を軽減できる可能性が示唆されています。そもそも、高タンパク質食を摂る人の多くは、筋力アップのためにウエイトトレーニングを行っていると考えられるため、この点は重要です。

ただし、ピッツバーグ大学の研究で用いられたような極めて高タンパク質食 (2500kcal の摂取カロリーのうち約 290g のタンパク質) は、日常的にレジスタンス運動を行わない人にとっては必要ないでしょう。また、今回の研究は決して悪い研究ではないものの、結論が過剰にセンセーショナルに報じられた点が問題視されています。ピッツバーグ大学の研究結果から、運動習慣のない一部の人にとっては、非常に大量のタンパク質を摂取することで動脈硬化が悪化する可能性がある、ということが示唆された程度です。

高タンパク質食が心臓に悪い、と安易に心配する必要はありません。 ただし、極端にタンパク質を摂りすぎたり、運動習慣がなければ、健康に悪影響を及ぼす可能性があることも頭の片隅に入れておきましょう。 大切なのは、バランスのとれた食事と適度な運動を心がけることです。

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