NMNの研究は、1906年のNAD+の発見から始まり、2011年の今井眞一郎教授らによる画期的な研究を経て、現在では抗老化や健康寿命延長の可能性を秘めた次世代成分として世界中の注目を集めています。

NMNとNAD+の関係

NMNはNAD+の前駆体であり、体内でNAD+に変換されます。NAD+は生命維持や老化予防に欠かせない補酵素で、ミトコンドリアでのエネルギー産生に重要な役割を果たします。

加齢とともにNAD+量は減少しますが、NAD+を直接摂取しても吸収されにくいため、NMNの摂取がNAD+量を効率的に増やす方法として注目されています。

NMNはNAD+に変換されることで、サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)を活性化し、細胞の若返りや代謝機能の改善エネルギー産生の向上などの効果が期待されています。

サーチュイン遺伝子とNMN

サーチュイン遺伝子は、別名「長寿遺伝子」や「抗老化遺伝子」と呼ばれ、老化の防止やがんの抑制など健康寿命の延長に関わる重要な遺伝子です。NMNは体内でNAD+に変換され、このNAD+がサーチュイン遺伝子を活性化させます。

サーチュイン遺伝子の活性化により、肌細胞の若返り、体力の向上、疲労回復など、全身の身体機能が改善されると考えられています。

しかし、加齢とともにNAD+の生産量は減少するため、NMNの摂取によってNAD+を補充し、サーチュイン遺伝子を活性化させることで、老化の進行を遅らせる効果が期待されています。

NMNの臨床試験の進展

NMNの臨床試験は近年急速に進展しており、ヒトにおける安全性と有効性の評価が進んでいます。

2022年に発表された研究では、健常成人を対象に1日1250mgのNMNを4週間摂取した結果、血液検査や尿検査、体組成検査において問題となる変化は認められませんでした。

また、2024年に発表された長期臨床研究では、健康な成人男性を対象にNMNの長期内服の安全性が確認され、体内のNAD+量が増加することが示されました。

さらに、高齢者を対象とした臨床試験では、NMN摂取と筋力強化運動の組み合わせが骨格筋の量と機能に及ぼす影響について探索的な研究が進行中です。これらの臨床試験の進展により、NMNの安全性と潜在的な健康効果に関する科学的な理解が深まりつつあります。

NMN研究の先駆者たち

NMNの研究史において、多くの科学者が重要な貢献をしてきました。以下の表は、NMNとその関連物質の研究に携わった主要な研究者とその功績を年代順にまとめたものです。

研究者功績
1906年アーサー・ハーデン、ウィリアム・ヤングアルコール発酵の過程でNAD+を発見
1976年不明NAD+が細胞内で重要な役割を持つことを発見
2008年今井眞一郎ワシントン大学セントルイス校でNMN研究を開始
2011年今井眞一郎らNMNの抗加齢研究を本格的に開始
2016年今井眞一郎らNMN研究の成果がCell Metabolismに掲載
2019年伊藤裕ら世界初のヒトにおけるNMN単回内服の安全性を確認
2024年伊藤裕、林香、山口慎太郎ら健康な成人におけるNMN長期内服の安全性を確認

この表は、NMN研究の主要な節目を示しています。初期のNAD+の発見から、現代のNMNの臨床研究に至るまで、多くの研究者の努力により、NMNの可能性が明らかになってきました。